2021年5月27日木曜日

エリック・カールさんから学んだ2つのこと

はらぺこあおむし

ご覧くださって、ありがとうございます。
カラーリスト・色彩講師の千葉真須美です。

「はらぺこあおむし」の作者エリック・カールさんの訃報を耳にし、
もう20年近くも前に大きな影響を受けたことを思い出しました。



「色の魔法を学ぶ」


NHKで放映された「未来への教室」というテレビシリーズの
第3回目に登場したのがエリック・カールさん。
番組は「色の魔法を学ぶ」というタイトルで、子どもを対象とした
ワークショップの様子を紹介する内容でした。
この番組で、私は2つのことを学びました。



■ よく見ることの大切さ


「よく見てごらん。同じ葉っぱでも、光が当たっているところと、
 当たっていないところとでは色が違うでしょう?」
エリックさんは庭に立ち植物を指しながら、
色を観察することの大切さを教えてくれます。
意識してよく見ることで見えてくる色があります。



■ やってみることで新たな美しさを得る


紙に自由に色を塗って色紙を作るワークでは、
小さい子どもたちは楽しそうに思いのまま色を重ねていきます。
ところが、少し年上の子たちは「〇〇色と〇〇色を合わせたら、
おかしいかな…?」などと考え込んでしまい、なかなか手が動きません。
年齢が上がると、やってみることへのハードルも上がるようです。

色は、頭であれこれ考えるより、実際に試すのが確実です。
その上、私の経験では「やってみたら予想より良かった!」
ということが多いです。試せば試すほど、
今まで気づかなかった配色の美しさが得られそうです。

そして、画面の中で楽しそうに語るエリックさんの姿からは、
色の楽しさ、素晴らしさが何よりも伝わってきました。

よく見ること、やってみること
エリックさんからの学びの影響は、私のブログ記事にも表れています。


【関連記事】
カラーセンス(色彩力)を磨く!その1~色を観察する
カラーセンス(色彩力)を磨く!その3~色を組み合わせてみる





2021年5月25日火曜日

「誘目性」と「視認性」を身近な例で解説

誘目性と視認性

ご覧くださって、ありがとうございます。
カラーリスト・色彩講師の千葉真須美です。

カラーコーディネーター検定試験・スタンダードクラスの
公式テキストで最初に登場する重要語句は
「誘目性」「視認性」です。
今日はこの2つについてご説明します。



誘目性とは?視認性とは? それぞれの意味と実例


誘目性とは、
目を引きつける性質のことで、目立ちやすさのことです。
誘目性が高い色は、赤、橙、黄などの鮮やかな暖色です。

視認性は、
文字や形が遠くからでもよく見える、
あるいは見つけやすいといった見えやすさのことです。
視認性は背景色との明度差に関係し、
その差が大きいほど視認性が高くなります。

では、上の写真の看板で確認してみましょう。
(手前の看板は左端をモザイク加工をしています)


■誘目性

画像の中で目を引くのは、どの看板でしょうか?

病院・薬局が4件並んだ看板は、画面の中央近くに位置し、
面積も大きいので目が行きやすいのですね。
しかし、この看板に注目している最中でも、
画面右上にある赤い看板が目に入ってきませんか?
遠くにあって、面積もそれほど大きくないのに
しっかりと目立っています。
これが誘目性が高いということです。



■視認性

次は視認性です。
病院・薬局の看板は、白地に黒い文字がくっきりと描かれ、
視認性抜群です。

続いて、看板の右端にある階の表示を比較してみましょう。
(比較しやすいよう同じ配色を画像右側に作りました)
最も見えやすいのは Bの 黒文字 + 黄色い背景、
続いて Aの 白文字+深い青の背景 ですね。
どちらも明度差の大きな組み合わせです。

では、最も見えにくいのは?

これはC。白文字+黄緑の背景 はどちらも明度が高いので、
明度差が小さく、視認性はあまり良くありません。
もっと見えやすくするには、例えば、文字色を黒にして
黄緑との明度差を大きくします。


視認性

いかがでしょうか?

誘目性と視認性は、このような看板やディスプレイの他
プレゼンのスライドなどにも応用できますね。




2021年5月22日土曜日

大人の塗り絵/配色のアイディア ~ 色の位置関係に注目

大人の塗り絵 対照色相配色
color by Masumi Chiba

ご覧くださって、ありがとうございます。
カラーリスト・色彩講師の千葉真須美です。

今回も ジョハンナ・バスフォードさんによる
「ふしぎな王国」 からの塗り絵です。



私の場合、植物を描いた線画は、
葉は緑系、花は暖色系の色で塗りたくなります。
しかし、この作品ではそれにとらわれず
画面での位置関係に注目して配色しました。



対照色相配色 と 類似色相配色


まずは円状に配置されたモティーフの外側部分を、
その時心惹かれた緑みの青でぐるりと囲みました。
背景は、繊細な植物のラインが引き立つように、
対照色相の黄みの橙用いて色相の違いを強調しました。
(上の図・右側の配色)

そして、円の外側から中心に向かって
緑みの青 → 青緑 → 緑 → 黄緑
色相のグラデーションに。
背景もまた、
黄みの橙 → 黄 → 淡い黄色
変化させました。


大人の塗り絵 類似色相配色
color by Masumi Chiba

中央部分は、黄色系と黄緑(実際は黄緑より少し緑より)で
類似色相配色になっています。
(上の図・右側の配色)
その結果、中央部分に近づくにつれて、
モティーフと背景の色がなじんでいきます。

最後に、蝶とオオハシの
アクセントカラーとして加え、ポイントを作りました。

描かれたモティーフよりも位置関係に注目したので、
全体の色の配置や色どうしの関係性でアピールする
仕上がりになったと思っています。



【関連記事】

大人の塗り絵/配色のアイディア ~ 補色を組みあわせて
大人の塗り絵/色選びのヒント 6 ~ 色相環を利用した2つの作品





2021年5月17日月曜日

「サロメ」|装丁に見る、黄色と黒が果たす役割

原田マハ 著「サロメ」の表紙カバーと配色例
原田マハ「サロメ」(文庫本)


今回は、原田マハ 著「サロメ」の大変魅惑的な装丁を取り上げます。

この作品は画家ビアズリーと彼の姉、そしてオスカー・ワイルドの関係を中心とした物語で、表紙カバーに使われている絵は、ビアズリーが描いた「サロメ」からの一枚です。


■ 黄色と黒の配色が伝えること



ビアズリー作品「サロメ」の挿絵と、イエロー・ブックの表紙
ビアズリー作品(左)「サロメ」より、(右)イエロー・ブック表紙


・「イエロー・ブック」の黄色を取り入れて

ビアズリーによる作品は白黒ですが(画像左)、装丁デザインでは白の代わりにビビッドな黄色が使われています。この色使いは、ビアズリーが表紙を手掛けた季刊誌「イエロー・ブック(The Yellow Book)」(画像右)を再現しているようです。


・黄色+黒の配色効果

黄色と黒は 誘目性(=人の目を引きつける度合い)が大変高い組み合わせです。「注意」を促す配色でもあり、標識や踏切の遮断器など危険を知らせる表示に用いられています。

そのため、この配色を見ると、多少なりともどこか危ないイメージを感じることと思います。

また、この2色は明度、彩度の差が大きくダイナミックな配色なので、ビアズリーの繊細で妖しい線画にドラマチックな雰囲気を加えています。

まとめると、この装丁の黄色と黒の配色は、ビアズリーの「イエロー・ブック」との関連性を示しながら、人の注意を引きつけ、物語のドラマ性を伝える役割を果たしていると言えます。

私自身も書店で思わず手に取ってしまったのでした。




2021年5月12日水曜日

大人の塗り絵 ~ ウィリアム・モリスを真似てみたら…

大人のぬり絵
(左)塗り絵  (右)ウィリアム・モリス「いちご泥棒」

ご覧くださって、ありがとうございます。
カラーリスト・色彩講師の千葉真須美です。

ウィリアム・モリスの配色を真似て塗り絵をしてみました。
参考にしたのはモリスの代表作「いちご泥棒」(画像右)、
塗ったのは、ジョハンナ・バスフォードさんの塗り絵本
「ふしぎな王国」の中の1枚です。(画像右)





真似ることで学ぶ、色の組合せとバランス


「いちご泥棒」で使用されている色を参考に
 ・背景色のネイビー
 ・植物のライトブルー、ライトグリーン
 ・花の淡いピンク
 ・苺の赤
計5本の色鉛筆を選び、5色の配色を考え、
ぬり絵の各パーツを塗っていきました。

苦労したのは、それぞれの色の割合 です。
特にライトブルーとライトグリーンの配置・バランスが難しく、
モリスは ブルー>グリーン 、私は ブルー<グリーン と、
割合が逆になってしまいました。

また、塗り絵は「いちご泥棒」に比べ背景部分が多いので、
ネイビーの主張が強くなりました。

結果、同じような色を使っても、ちょっと違う雰囲気に…。
色の割合が異なるとイメージも変わりますね。
色合わせだけでなく、面積のバランスも重要であることを
塗り絵で再認識しました。


【関連記事】
カラーセンス(色彩力)を磨く!その6~色の分量・配置に注目






2021年5月9日日曜日

【色の話】カーキ色とは? 2つのカーキ色と使うときの注意点

AとBの2色を並べたカーキ色の比較画像


画像の質問「カーキ色はどっち?」に、あなたは A・B どちらの色を答えますか?


■ カーキ色は1つではない

正解は、どちらもカーキ色です。

もともとはAの色がカーキ色で、JISの慣用色名でもAのくすんだ黄みの赤がカーキ色(カーキー色)とされています。

「カーキ」とはヒンディー語で泥土や土埃の色を意味し、ミリタリーウェア(軍服)でよく使用されました。

その後「軍服色」の意味合いが強まり、米軍が森林地帯用に採用したくすんだ緑色(Bのような色)もカーキと呼ばれるようになったと言われています。

実際にBをカーキ色と認識していらっしゃる方が多いですし、この2色周辺の色もカーキ色と表現されることがあります。

ちなみに、Bの色はJISの「オリーブグリーン」で、暗い灰みの黄緑色です。
(*2色とも色彩検定3級範囲の色です。)


・カーキ色の注意点・その1/
  色を伝える際に注意する

カーキ色と言った時に連想される色が複数あるのですから、人に伝える場合には、色みの説明を加えたり、色見本を示すなどの配慮が必要です。AのつもりがBで伝わってしまう危険があります。


・カーキ色の注意点・その2
  大人のファッションではくすみに注意

カーキ色はくすみのある色ですので、ファッションに取り入れた場合に全体的にくすんだ印象を与えてしまうことがあります。

特に肌のくすみが気になる大人世代の方は要注意です。

  • カーキ色をボトムにして、お顔から遠ざける
  • ジャケットがカーキの場合、インナーを白にする
  • 明るく澄んだ色を小物で差し込んでメリハリをつくる

など、ひと工夫して取り入れるのがおすすめです。


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