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2025年8月23日土曜日

「色にいでにけり」|江戸時代のカラーコーディネーター


坂井希久子著 小説「色にいでにけり」カバー画像

色を楽しみたい方に向けて、姉妹ブログの「IROKORO」で本のご紹介をしていますが、この小説については、色を学んでいる方におすすめしたいと思い、こちらのブログで取り上げました。なんと、江戸時代のカラーコーディネーターのお話です。


■ 作品情報

・タイトル:江戸彩り見立て帖 色にいでにけり
・著  者:坂井 希久子
(あらすじ)
お彩の父親は腕のいい摺師でしたが、火事で視力も、仕事場も失ってしまいます。
盲いた父の面倒を見ながら貧乏長屋で暮らしているお彩。
婚約者との縁談も流れ、粗末な木綿の着物に身を包んでいますが、お彩には、天性の鋭い色彩感覚があるのでした。(amazonより)


■ この本のおすすめポイント

舞台は江戸後期。ちょうど大河ドラマ「べらぼう」の少し後でしょうか。浮世絵や歌舞伎が人気の町人文化全盛の時代です。色彩感覚に優れたお彩が、彼女に持ち込まれた色に関する難題に取り組んでいく姿は、まさに「江戸のカラーコーディネーター」です。

この物語を読んで、私が特におすすめしたいポイントは次の3つです。

・伝統色名がふんだんに使われている
・色の知識がどんなところで必要とされるかがわかる
・色を選ぶ際の視点が描かれている

それぞれの点について、もう少し詳しくご紹介します。


■ 四十八茶百鼠、役者色など伝統色が楽しめる

最初の数ページだけでも、伝統色名が次々と登場します。鳶色(とびいろ)、藍鼠(あいねず)、紺青(こんじょう)、瑠璃(るり)、瓶覗(かめのぞき)…と、大変豊富です。一色、一色、どんな色かを思い浮かべながら読む楽しみがあります。

江戸時代の色彩を代表する「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず)」、「役者色(やくしゃいろ)」もストーリーの中で語られると、色彩用語として学ぶのと違って、より身近に感じられます。

*四十八茶百鼠
 庶民の間で流行した茶色と鼠色のバリエーションの多彩さを表したことば
*役者色
 團十郎茶(だんじゅうろうちゃ)、路考茶(ろこうちゃ)など、歌舞伎の人気役者に因んだ色


■ 色が役立つ場面と、色選びの視点

お彩への依頼は、和菓子の色、着物の色など、こういう場面で色の知識が必要とされるという例として捉えることができます。

また、これらの依頼について色を提案する過程で、お彩がどんな点をポイントにして色を選ぶのかが、まさにカラーコーディネーター視点です。例えば着物の色なら、その人に似合うだけでなく、他の要素も考慮するなど。

これらを具体的に解説するとネタバレになってしまうので、詳細はぜひ本書でご確認いただければと思います。物語自体もとても面白いので、ぜひお楽しみください!


🔗 関連リンクやおすすめ記事紹介


2023年1月19日木曜日

映画「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」|印象に残る茶と青の対比

映画「ギレルモ・デル・トロのピノッキオ」の2種類のビジュアルを並べた画像

ディズニー映画をはじめ何度も映像化されている童話「ピノキオ」が、「シェイプ・オブ・ウォーター」でアカデミー賞を受賞したギレルモ・デル・トロ監督により、また新たな魅力を持つストップモーション・アニメ映画となりました。

どのシーンも美しく、かつ個性的で、デル・トロ監督独特の美意識に溢れています。その中で、特に印象に残った色彩効果について取り上げます。


■ 同一~類似色相でまとめられた映像

画面を構成する色(色相)の数が絞られていて、全体的に色のまとまりのあるシーンが多く見られました。

上のポスター画像はその良い例で、左側は暖かみのある茶系、右側は冷たいネイビー~黒ブルー系が画面を占め、色のイメージが各シーンの雰囲気を高めています。


■ 暗くくすんだ色調

明度も彩度も高くないトーン、PCCSでいうと、ダルトーン、グレイッシュトーン、ダークトーンが目立ちます。

その結果、かなり個性の強いキャラクターが登場したり、画面の中の情報量が多いような場合でも、全体的に安定感があり、時にはダークな雰囲気を醸し出しています。


■ 青の効果

全体的に橙色のバリエーションである茶系が多い中で、補色にあたる青系の色が効果的に使われています。

例えば、上の2枚のポスターのような現実世界(左・茶系)と死後の世界(右・青系)が場面転換されると、対照的な色使いによりそれぞれの世界観が強調されます。

また、左側のポスターでは茶系のピノッキオと青いクリケット(コオロギ)、右側ではブルー系の世界に茶系のタイトル文字というように、一つの画面の中でもこの二色の対比が活かされています。


■ 色彩に際立ちと変化を与えるライティング

ストップモーション・アニメはセットの中で人形を少しずつ動かして1コマ1コマ撮影します。そのセットや人形を照らすライティングが大変効果的かつ印象的です。

暖かい陽の光、青白い月明り、スポットライトなど、セットや人形の色彩に変化と陰影を与えて、よりドラマティックな世界を作り上げています。

これらの特徴は、明るくカラフルなディズニー版「ピノキオ」と対照的で、比較して見るとその違いがより分かりやすいと思います。

ちなみに、ピノッキオ(ピノキオ)とはイタリアで松ぼっくりのことだそうで、この作品の中にも松ぼっくりが所々に登場しますよ。


■ 関連記事

映画「シェイプ・オブ・ウォーター」|映像のキーカラーはティール




2022年2月5日土曜日

韓国ドラマ「ある日~真実のベール」|青は囚人服の色?

韓国ドラマ「ある日~真実のベール」のワンシーン

韓国ドラマ「ある日~真実のベール」を観ていたら、「青は囚人服の色」というセリフが出てきました。韓国の囚人服は青なので、青い服は「囚人服」を思い起こさせるようです。

このことについて今回初めて知ったので、ちょっとご紹介したいと思います。


■ 青色のシャツは囚人服を連想させる

このドラマはキム・スヒョンさん演じる平凡な大学生ヒョンスが、軽率な行動をとったことが原因で殺人犯として逮捕され、少々頼りない弁護士(チャ・スンウォンさん)の助けを得ながら、圧倒的に不利な裁判で無実を訴え続けるというストーリーです。

第5話、初めて法廷に立つ日、スヒョンは母親が用意したライトブルーのシャツを身に付けて裁判に臨もうとします。その姿を見た弁護士は「そのシャツはなんだ…」とため息をつき、自分が着ている白いシャツと取り換えるようヒョンスに指示します。

その理由が「青は囚人服の色だ」というもの。

ドラマに登場する囚人服は明るいデニム素材のようなブルーで、ちょうど上の画像右側のトレーナーのような色です。(この写真は拘置所内のシーンで、まだ囚人服ではありません。)

これから無罪を訴えようとする被告人が、囚人のような色の服でマイナスイメージを与えないための、見た目へ配慮でした。

また、取り換えて着用した白いシャツは明るく清潔感があり、陪審員にクリーンなイメージを与えることができます。シャツカラーからも潔白であることを示す作戦です。


■ 心境の変化を表すシャツのカラー

*ここからは少々ネタバレですので、ご注意ください。

自分の主張が全く認められず追い詰められていくヒョンスは絶望し、裁判の席でも暗い表情で投げやりな態度をとります。その時に着ているのが黒いシャツです。この黒がヒョンスの心の中をよく表しています。

同時に彼の見た目の印象も悪化させています。黒は悪や罪をイメージさせる色で、日本でも有罪であることを示すときに「あいつはクロだ」なんて言ったりしますね。

青、白、黒、この3色のシャツカラーによって、主人公の立場や心理状況が見ている人に感覚的にも伝わるよう工夫された作品であると感じました。




2021年8月17日火曜日

大人の塗り絵|明清色トーンでつくるクリアな色調

クリアな色調を中心とした大人の塗り絵作品とトーンマップ
colored by Masumi Chiba

今回はクリアな色調を意識して配色した塗り絵作品をご紹介します。ジョハンナ・バスフォード作「Wonders おとぎの国のぬりえブック」 からの一枚です。


■ 明清色を中心に配色

美しいスワンの線画を見て、イメージしたのがステンドグラスです。このイメージから、色ガラスの透明感を感じさせるような明るく澄んだトーンで配色することに決めました。


クリアな色調を中心とした大人の塗り絵作品の途中経過

まずは、線画をステンドガラス風にアレンジ。もとの線画は楕円形の部分だけですが、四角い枠を書き込んで外側を黒く塗りつぶしました。(上の画像左)

配色は明清色トーンのペールトーン(p)、ライトトーン(lt)、ブライトトーン(b)を中心に選びます。中央を引き立てるために楕円形の外側は無彩色のグレーにしましたが、こちらも明るいライトグレイ(ltGy)にしました。

また、塗り方も一工夫しました。

色鉛筆による色の表現の1つに、異なる色を重ねて深みを出す方法があります。この方法は色の深みや重厚感が出せる一方で、透明感や明るさが低下しがちです。そのため、なるべく複数の色を重ねずに、単色の濃淡で塗るようにしました。

クリアな印象が伝わっていれば成功なのですが、いかがでしょうか。




2021年8月9日月曜日

映画「わたしたち」|ネイルカラーが伝える心模様

映画「わたしたち」のポスターの画像

「色」が大変印象深い映画「わたしたち」をご紹介します。

この作品は学校でのいじめや家庭の事情を通し、少女が一歩成長する姿を描いた2016年制作の韓国映画です。


■ 心の動きとリンクするネイルカラー

(※少々ネタばれがありますので、ご注意ください。)

物語の中でポイントとなるのが、主人公ソンの爪の色です。

ストーリーと爪の色の変化を、私の下手な絵で申し訳ありませんが、下の図を使ってお伝えします。


映画「わたしたち」でネイルの変化を紹介する図

小学4年生のソンはクラスでいじめに遭っています。夏休み前の終業式の日、ソンは転校生のジアと出会い、意気投合した二人は夏の間友情を育みます。

ある日二人は庭に咲いているホウセンカの花の汁で、爪を赤く染めました。透明感のある美しい赤色です。(図の1番)上のポスターの画像がそのシーンで、ソン(右側)の奥に赤いホウセンカの花、ソンの手もとに花の汁がはいったボウルが見えています。

新学期が始まると、ジアの様子が急によそよそしくなります。その頃、爪の赤い色は半分に。(図の2番)実際は爪が伸びた結果ですが、なんとなく友情が半分に減ってしまったイメージです。

ジアとの仲が険悪になっていく一方で、ソンはいじめっ子の一人が貸してくれたマットブルーのネイルカラーを、半分赤い爪の上に重ねます。まるでジアとの友情を否定するかのように。(図の3番)

今度はジアがいじめの標的となり、両者の間で複雑な心境のソン。ブルーのネイルカラーは所どころ剝げ落ちて、その下の赤が再び現れてきました。(図の4番)

このように、ソンの心の動きが、そのまま彼女の爪の色に表れていて赤とブルーといった対照的な色使いや、重ねたりはげ落ちたりといった表現が素晴らしいと思いました。

爪の色にストーリーを重ねるなんて、少女の物語ならではですね。

ラストの展開にも爪の色が関わっていますが、これ以上のネタバレは差し控えたいと思います。作品でご確認くださいね。




2021年6月3日木曜日

大人の塗り絵|配色のヒント⑩ グラデーションを主役に

「中村佑介ぬりえブック 」からの塗り絵作品と配色のアイディアを表す色票
colored by Masumi Chiba

人気イラストレーター中村佑介さんによる2冊目の塗り絵本「中村佑介ぬりえブック COLOR ME, too」(下の画像)から1枚を塗りました。

「中村佑介ぬりえブック COLOR ME, too」の表紙

■ 紫系の色相グラデーションがポイント

一番上の画像が完成作品です。この配色を決める時「とにかく紫が塗りたい!」と、頭の中は紫モードでした。そこで、主役の女性のドレスは 赤紫~紫~青紫と、紫系の色相グラデーションに決定。

塗りはじめは、女性を取り囲む電話ボックスの内部です。目に飛び込んでくる葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」のような大波は、北斎の色彩をそのまま取り入れました。右上の巨大な月(?)は黄色系で、波のブルー系と対照的な色相です。


大人の塗り絵「中村佑介ぬりえブック」からの1枚、途中経過

その他、色数があまり多くならないよう、
・左側の狛犬、電話ボックス下の砂浜・アスファルト : グレー
・右側の柴犬(中村さんの愛犬ポンちゃん) : 月に近い色調
・梅の木、電話ボックスのフレーム、公衆電話 : 茶系
・背景 : ドレスに合わせて紫系
と、色のまとまりを意識しました。

また、全体的にエレガントな雰囲気になるよう、エレガント・イメージの配色(詳細は関連記事をご覧ください)を意識しました。

中村さんの塗り絵はお洒落でキュート、かつユニークな中村ワールドで、塗っていてとても楽しい!ちょっと難しいですけど、おすすめです。


■ 関連記事

カラーコーディネート|カラーイメージ⑥ エレガント




2021年5月27日木曜日

エリック・カールさんから学んだ2つのこと

「はらぺこあおむし」の作者エリック・カールさんの訃報を耳にし、もう20年近くも前に大きな影響を受けたことを思い出しました。


■ テレビ番組「色の魔法を学ぶ」

NHKで放映された「未来への教室」というテレビシリーズの第3回目に登場したのがエリック・カールさん。番組は「色の魔法を学ぶ」というタイトルで、子どもを対象としたワークショップの様子を紹介する内容でした。

この番組から、私は2つのことを学びました。


・よく見ることの大切さ

「よく見てごらん。同じ葉っぱでも、光が当たっているところと、当たっていないところとでは色が違うでしょう?」

エリックさんは庭に立ち植物を指しながら、色を観察することの大切さを教えていました。意識してよく見ることで、見えてくる色があるのです。


・やってみることで新たな美しさを得る

紙に自由に色を塗って色紙を作るワークのシーンでは、小さい子どもたちは楽しそうに思いのまま色を重ねていきます。

ところが、少し年上の子たちは「〇〇色と〇〇色を合わせたら、おかしいかな?」などと考え込んでしまい、なかなか手が動きません。年齢が上がると、やってみることへのハードルも上がるようです。

色合わせは頭であれこれ考えるより、実際に試すのが一番だと思います。さらに、私の経験では「やってみたら予想より良かった!」ということが少なくありません。試せば試すほど、今まで気づかなかった配色の美しさに出会います。

そして、画面の中で楽しそうに語るエリックさんの姿からは、色の楽しさ、素晴らしさが何よりも伝わってきました。

よく見ること、やってみること、この2つのエリックさんからの学びの影響は、私のブログ記事にも表れています。


■ 関連記事

カラーセンス(色彩力)の磨き方|① 色を観察する
カラーセンス(色彩力)の磨き方|③ 色を組み合わせてみる




2021年5月22日土曜日

大人の塗り絵|配色のヒント⑨ 色の配置で配色を考える

大人の塗り絵「ふしぎな王国」からの作品と配色アイディアを表す色票
colored by Masumi Chiba

今回も ジョハンナ・バスフォード作「ふしぎな王国」からの塗り絵です。

植物を描いた線画の場合、私は葉は緑系、花は暖色系の色で塗りたくなります。しかし、この作品ではそのことにとらわれず、画面構成の位置関係に注目して配色を決めました。


■ 対照色相配色と類似色相配色

まずは円状に配置された植物の外側部分を、その時に心惹かれた緑みの青でぐるりと囲むように塗りました。

背景は繊細な植物のラインが引き立つように、緑みの青の対照色相である黄みの橙を用いてきわだち感を強調しました。

そして、円の外側から中心に向かって 緑みの青 → 青緑 → 緑 → 黄緑 と色相のグラデーションに。これに合わせて背景も 黄みの橙 → 黄 → 淡い黄色 と変化させました。


大人の塗り絵「ふしぎな王国」からの作品と配色アイディアを表す色票
colored by Masumi Chiba

中央部分は、黄色系と黄緑(実際は黄緑より少し緑より)で類似色相配色になっています。(上の図・右側の配色)その結果、中央部分に近づくにつれてモチーフと背景の色がなじんでいきます。

最後に、蝶とオオハシの黒を加えてアクセントカラーとしました。

描かれたモチーフよりも位置関係に注目したので、全体の色の配置や色どうしの関係性でアピールする仕上がりになったと思います。


■ 関連記事

大人の塗り絵|配色のヒント⑧ 2組の補色を組み合わせる
大人の塗り絵|配色のヒント⑥ 色相環からヒントを得る




2021年5月17日月曜日

「サロメ」|装丁に見る、黄色と黒が果たす役割

原田マハ 著「サロメ」の表紙カバーと配色例
原田マハ「サロメ」(文庫本)


今回は、原田マハ 著「サロメ」の大変魅惑的な装丁を取り上げます。

この作品は画家ビアズリーと彼の姉、そしてオスカー・ワイルドの関係を中心とした物語で、表紙カバーに使われている絵は、ビアズリーが描いた「サロメ」からの一枚です。


■ 黄色と黒の配色が伝えること



ビアズリー作品「サロメ」の挿絵と、イエロー・ブックの表紙
ビアズリー作品(左)「サロメ」より、(右)イエロー・ブック表紙


・「イエロー・ブック」の黄色を取り入れて

ビアズリーによる作品は白黒ですが(画像左)、装丁デザインでは白の代わりにビビッドな黄色が使われています。この色使いは、ビアズリーが表紙を手掛けた季刊誌「イエロー・ブック(The Yellow Book)」(画像右)を再現しているようです。


・黄色+黒の配色効果

黄色と黒は 誘目性(=人の目を引きつける度合い)が大変高い組み合わせです。「注意」を促す配色でもあり、標識や踏切の遮断器など危険を知らせる表示に用いられています。

そのため、この配色を見ると、多少なりともどこか危ないイメージを感じることと思います。

また、この2色は明度、彩度の差が大きくダイナミックな配色なので、ビアズリーの繊細で妖しい線画にドラマチックな雰囲気を加えています。

まとめると、この装丁の黄色と黒の配色は、ビアズリーの「イエロー・ブック」との関連性を示しながら、人の注意を引きつけ、物語のドラマ性を伝える役割を果たしていると言えます。

私自身も書店で思わず手に取ってしまったのでした。




2021年5月12日水曜日

大人の塗り絵|ウィリアム・モリスの配色を真似てみる

大人のぬり絵作品と配色の参考にしたウィリアム・モリスの作品を並べた画像
(左)塗り絵「ふしぎな王国」より(右)ウィリアム・モリス「いちご泥棒」

ウィリアム・モリスの配色を真似て塗り絵をしてみました。参考にしたのはモリスの代表作「いちご泥棒」(画像右)で、塗ったのはジョハンナ・バスフォード作の塗り絵本「ふしぎな王国」の中の1枚(画像右)です。


■ 真似ることで学ぶ、色の組み合せとバランス

「いちご泥棒」で使用されている色を参考に、
 ・背景色のネイビー
 ・植物のライトブルー、ライトグリーン
 ・花の淡いピンク
 ・苺の赤
計5本の色鉛筆を選び、5色の配色を考えてぬり絵の各パーツを塗っていきました。

苦労したのは、それぞれの色の割合です。特にライトブルーとライトグリーンの配置・バランスが難しく、モリスは ブルー>グリーン 、私の場合は ブルー<グリーン と、割合が逆になってしまいました。

また、私の塗り絵は「いちご泥棒」に比べ背景部分が多いので、ネイビーの主張が強くなりました。

これらの結果、同じような色を使っても、ちょっと違う雰囲気に…。

色の割合が異なるとイメージも変わります。色合わせだけでなく、面積のバランスも重要であることをこの塗り絵で再認識しました。


■ 関連記事

カラーセンス(色彩力)の磨き方|⑥ 色の分量・配置に注目




2021年4月29日木曜日

映画「シャイニング」|恐怖を高める色彩演出

映画「シャイニング」に登場するホテルのカーペットの柄

上の画像を見てピンと来た方は、かなりの映画通のはずです!

これは、ホラー映画の傑作「シャイニング」に登場するホテルのカーペットの柄です。かなりインパクトのあるデザインですよね。

私はホラーやスプラッタが苦手で、この作品はポスターを見ただけで「絶対無理!」と思っていましたが、ついに先日勇気を出して観てみました。


映画「シャイニング」のポスター画像

■ この色使いに注目!

(※少々ネタばれがありますので、ご注意ください。)

覚悟していた通りかなり怖かったのですが、私としては怖さよりも次のような色使いの方が印象的でした。

・この物語は冬期閉鎖中の山岳リゾートホテルが舞台です。オープニングで映し出されるホテルの全景は外壁がミディアムグレーで、山肌に溶け込む色合いですが、リゾートホテルとしては少々陰気な感じがします。

・館内はカントリー調の比較的落ち着いた内装です。しかし物語が進行し、主人公の幼い息子が三輪車で廊下を走り回るシーンで画像の柄のカーペットが登場します。

・この柄の不思議な幾何学模様とエスニックな色調が、何とも言えない不気味さで、まるで違う世界への橋渡しをしているようです。物語もこのあたりから、だんだん異様な雰囲気に…。

・女性の幽霊と遭遇する部屋はパープルとライトグリーンのインテリアに、ライトグリーンのバスルームで、他の内装と明らかに違和感のあるカラーリングです。

・そして、真っ赤なトイレのシーンでは、刺激的な色彩が緊張感と恐怖感を高めています。

名作はさすがに色使いも素晴らしい!

まだご覧になっていない方はもちろん、既にご覧になった方にも色彩効果からの視点での鑑賞をお薦めしたい作品です。




2021年3月13日土曜日

大人の塗り絵|配色のヒント⑧ 2組の補色を組み合わせる

海外の塗り絵「DESERT DREAMS」からの1枚と配色アイディア

海外の塗り絵「DESERT DREAMS」からウサギとサボテンが描かれた線画を塗り終えました。こちらの配色のアイディアについてご紹介します。


■ 鮮やかさを引き立てあう補色を利用

まず、線画の中で主役をサボテンに決め、鮮やかな緑色で塗ることにしました。そして、主役の緑色を鮮やかに見せるため、背景は補色の赤紫にしました。


補色の関係を表した色相環

画面上部に輝く三日月は黄色に。こちらも背景は補色の青紫を選びました。しかし、ピッタリと合う色が見つからず、ネイビー寄りの色鉛筆を使うことになりました。


補色の関係を表した色相環

■ 2組の補色をグラデーションでつなぐ

今回は主役のサボテンから塗り始めました。


海外の塗り絵「DESERT DREAMS」の1枚を塗り始めたところ

黄緑と緑で濃淡をつけ、その後、立体感を強めるために暗い部分にさらにネイビーを重ねました。

月は黄色、ウサギも黄色系の柔らかい色に。ウサギの体に描かれた植物は、目立ち過ぎないよう、黄色味を帯びたピンクやグリーンでウサギの色になじませました。


海外の塗り絵「DESERT DREAMS」の1枚、主役を塗った後に背景を塗り始めたところ

背景はサボテンの部分の赤紫から、サボテンが引き立つように暗めのトーンで塗りました。この赤紫と月の背景の青紫が自然につながるよう、間に紫を入れて、色相グラデーションを作りました。


海外の塗り絵「DESERT DREAMS」からウサギとサボテンが描かれた塗り絵作品
colored by Masumi Chiba

最後は全体の色の調子をチェック。土の色が少々明るかったので、ライトブラウンやグレーを重ねて深みを出しました。

また、鉛筆のタッチが残るよう、意識的に粗めに塗ってみました。

上部の月と背景、下部のサボテンと背景、2組の補色を使った作品の完成です!




2021年3月2日火曜日

「パチンコ」|「梅干し色の口紅」から考える色名の感覚

ざるの上に並んだ梅干しの写真

先日の読書で、かなりインパクトのある表現に出会いました。小説「パチンコ」の中の「口紅は梅干し色だ。」という一文です。


■ 違和感ある「梅干」と「口紅」の取り合わせ


・小説「パチンコ」とは


ミン・ジン・リー著「パチンコ」上下巻の写真

小説「パチンコ」は韓国系アメリカ人の作家ミン・ジン・リーさんによる、在日朝鮮人一家の物語です。

2017年にアメリカで100万部を越す大ベストセラーとなり、Apple TVでドラマ化されました。


・「梅干し色」の口紅

この色が登場するのは「パチンコ」の下巻で、主人公のソンジャがある日本人女性について描写する箇所です。

「年齢は六十代前半、灰色の髪は短い。とても美しい人だ。大きな黒い目、それを縁取る並外れて長いまつげ。すらりと伸びやかな体に、明るい緑色の着物を着ていた。口紅は梅干し色だ。まるで着物の広告のモデルだ。」

灰色、黒、明るい緑とシンプルな色名が並んだ後に、「梅干し色」が口紅の色として登場します。

初めて目にする表現に、一瞬フリーズしました。インパクトとともに、梅干しと口紅の取り合わせに少々違和感を感じました。

原文(英語)が気になり、確認すると
「The rouge on her lips was the color of umeboshi. 」
-と、umeboshi という単語がそのまま使用されていました。


■ 色名で感じる感覚の違い

さて、「梅干し色」とはどんな色でしょう?

梅干しにもさまざまな種類があり、色もくすんだ橙色から暗い赤まで幅があります。一般的に連想されるのは、上の画像のような紅色(べにいろ)ほど鮮やかでない少々くすみのある落ち着いた赤だと思います。

赤としての存在感はありながら主張が強くない色、大人の女性のシックな雰囲気が感じられる色だと思います。

ところで、「梅干し」と聞くと、多くの人が「すっぱさ」や、「シワシワな感じ」(古くは「梅干しばあさん」ということばがありました)を連想するのではないでしょうか。

それゆえ、日本では美しい人について語るときに「梅干し」ということばは、普通は使わないと思います。

しかし、語り手は日本に移住してきた朝鮮人のソンジャです。梅干しに慣れ親しんだ日本人よりも、外国人目線の方がその色の美しさをストレートに捉えられたのかもしれません。

「梅干」と「口紅」の結びつきに、そんな感覚や文化の違いも表現されているように感じました。

そして、あらためて梅干しを見つめると、何とも言えない赤色の美しさを再認識するのでした。