ご覧くださって、ありがとうございます。
カラーリスト・色彩講師の千葉真須美です。
私は読書が好きで、日頃から本の中で出会った印象的な色の表現を
集めています。先日、かなりインパクトのある表現に出会いました。
小説「パチンコ」の中の「口紅は梅干し色だ。」という一文です。
「梅干し色の口紅」からあれこれ考える…
小説「パチンコ」とは
「パチンコ」は韓国系アメリカ人の
作家 ミン・ジン・リー さんによる
在日朝鮮人一家の物語です。
2017年にアメリカで100万部を越す
大ベストセラーとなり、現在は
AppleTVがドラマ化を進めています。
「梅干し色」の登場箇所
この色が登場するのは「パチンコ」の下巻で、
主人公のソンジャがある日本人女性を描写する部分です。
「年齢は六十代前半、灰色の髪は短い。とても美しい人だ。大きな黒い目、
それを縁取る並外れて長いまつげ。すらりと 伸びやかな体に、明るい
緑色の着物を着ていた。口紅は梅干し色だ。まるで着物の広告のモデルだ。」
灰色、黒、明るい緑とシンプルな色名が並んだ後に、
梅干し色 が口紅の色として現れます。
初めて目にする表現に、一瞬フリーズしました。
インパクトとともに少々違和感がありますよね?
原文(英語)が気になり、確認すると
「 The rouge on her lips was the color of umeboshi. 」
-と、umeboshi という単語がそのまま使用されていました。
「梅干し色」が伝えるのは色だけではない?
さて、「梅干し色」とはどんな色でしょう?
梅干しにもいろいろあり、色もくすんだ橙色から暗い赤まで
幅がありますが、一般的に連想されるのは、上の画像のような
紅色(べにいろ)ほど鮮やかでなく少々くすみのある落ち着いた赤で、
赤としての存在感はありながら、主張の激しい色ではない色、
大人の女性のシックな雰囲気が感じられる色だと思います。
ところで、「梅干し」と聞くと、多くの人が「すっぱさ」や、
「シワシワな感じ」(「うめぼしばあさん」ということばが
ありますね)を連想するのではないでしょうか。
ゆえに、日本では、美しい人について語るときに「梅干し」という
ことばは、通常は使わないと思います。
しかし、語り手は日本に移住してきた朝鮮人のソンジャです。
梅干しに慣れ親しんだ日本人よりも、外国人目線の方が
その色の美しさをストレートに捉えられるのかもしれません。
「梅干」と「口紅」の結びつきに、そんな感覚の違いも
表現されているように感じました。
そして、あらためて梅干しを見つめると、
何とも言えない赤色だなぁと美しさを再認識するのでした。