2021年3月2日火曜日

梅干し色の口紅 ~ 梅干しの赤の美しさを再認識

 


ご覧くださって、ありがとうございます。
カラーリスト・色彩講師の千葉真須美です。

私は読書が好きで、日頃から本の中で出会った印象的な色の表現を
集めています。先日、かなりインパクトのある表現に出会いました。
小説「パチンコ」の中の「口紅は梅干し色だ。」という一文です。


「梅干し色の口紅」からあれこれ考える…


小説「パチンコ」とは


「パチンコ」は韓国系アメリカ人の
作家 ミン・ジン・リー さんによる
在日朝鮮人一家の物語です。

2017年にアメリカで100万部を越す
大ベストセラーとなり、現在は
AppleTVがドラマ化を進めています。



「梅干し色」の登場箇所

この色が登場するのは「パチンコ」の下巻で、
主人公のソンジャがある日本人女性を描写する部分です。

「年齢は六十代前半、灰色の髪は短い。とても美しい人だ。大きな黒い目、
それを縁取る並外れて長いまつげ。すらりと 伸びやかな体に、明るい
緑色の着物を着ていた。口紅は梅干し色だ。まるで着物の広告のモデルだ。」


灰色、黒、明るい緑とシンプルな色名が並んだ後に、
梅干し色 が口紅の色として現れます。
初めて目にする表現に、一瞬フリーズしました。
インパクトとともに少々違和感がありますよね?

原文(英語)が気になり、確認すると

The rouge on her lips was the color of umeboshi.

-と、umeboshi という単語がそのまま使用されていました。


「梅干し色」が伝えるのは色だけではない?

さて、「梅干し色」とはどんな色でしょう?
梅干しにもいろいろあり、色もくすんだ橙色から暗い赤まで
幅がありますが、一般的に連想されるのは、上の画像のような
紅色(べにいろ)ほど鮮やかでなく少々くすみのある落ち着いた赤で、
赤としての存在感はありながら、主張の激しい色ではない色、
大人の女性のシックな雰囲気が感じられる色だと思います。

ところで、「梅干し」と聞くと、多くの人が「すっぱさ」や、
「シワシワな感じ」(「うめぼしばあさん」ということばが
ありますね)を連想するのではないでしょうか。

ゆえに、日本では、美しい人について語るときに「梅干し」という
ことばは、通常は使わないと思います。

しかし、語り手は日本に移住してきた朝鮮人のソンジャです。
梅干しに慣れ親しんだ日本人よりも、外国人目線の方が
その色の美しさをストレートに捉えられるのかもしれません。
「梅干」と「口紅」の結びつきに、そんな感覚の違いも
表現されているように感じました。

そして、あらためて梅干しを見つめると、
何とも言えない赤色だなぁと美しさを再認識するのでした。