2021年3月13日土曜日

大人の塗り絵/配色のアイディア ~ 補色を組みあわせて

 

色のトリセツ

ご覧くださって、ありがとうございます。
カラーリスト・色彩講師の千葉真須美です。

海外の塗り絵「DESERT DREAMS」から仕上げた1枚について
配色のアイディアをご紹介します。





鮮やかさを引き立てあう補色の効果を利用して


色のトリセツ

まず、上の線画の中で、主役をサボテンに決め、
鮮やかな緑色で塗ることにしました。
そして、主役の緑色を鮮やかに見せるため、
背景は補色の赤紫にすることに。


色のトリセツ

画面上部に輝く三日月は黄色に。
こちらも背景は補色の青紫を選びました。
(しかし、ピッタリくる色が見つからず、
ネイビー寄りの色鉛筆を使うことになりました。)


色のトリセツ

今回は主役のサボテンから塗り始めました。
黄緑と緑で濃淡をつけ、
その後 立体感を強めるため、
暗い部分にさらにネイビーを重ねました。

月は黄色、ウサギも黄色系の柔らかい色に。
ウサギの体に描かれた植物は、
目立ち過ぎないよう、黄色味を帯びたピンクや
グリーンで、ウサギの色になじませました。

色のトリセツ

背景は、サボテンの部分の赤紫から。
サボテンが引き立つように暗めのトーンに。

この赤紫と、月の背景の青紫が、
自然につながるよう、間に紫を入れて
色相グラデーションを作りました。






色のトリセツ
color by Masumi Chiba


最後は全体の色の調子をチェック。

土の色がちょっと明るかったので、
ライトブラウンやグレーを重ねて
深みを出しました。

また、鉛筆のタッチが残るよう
わざと粗めに塗ってみました。

上部(月と背景)と
下部(サボテンと背景)、
2組の補色を使った作品の完成です!










2021年3月2日火曜日

梅干し色の口紅 ~ 梅干しの赤の美しさを再認識

 


ご覧くださって、ありがとうございます。
カラーリスト・色彩講師の千葉真須美です。

私は読書が好きで、日頃から本の中で出会った印象的な色の表現を
集めています。先日、かなりインパクトのある表現に出会いました。
小説「パチンコ」の中の「口紅は梅干し色だ。」という一文です。


「梅干し色の口紅」からあれこれ考える…


小説「パチンコ」とは


「パチンコ」は韓国系アメリカ人の
作家 ミン・ジン・リー さんによる
在日朝鮮人一家の物語です。

2017年にアメリカで100万部を越す
大ベストセラーとなり、現在は
AppleTVがドラマ化を進めています。



「梅干し色」の登場箇所

この色が登場するのは「パチンコ」の下巻で、
主人公のソンジャがある日本人女性を描写する部分です。

「年齢は六十代前半、灰色の髪は短い。とても美しい人だ。大きな黒い目、
それを縁取る並外れて長いまつげ。すらりと 伸びやかな体に、明るい
緑色の着物を着ていた。口紅は梅干し色だ。まるで着物の広告のモデルだ。」


灰色、黒、明るい緑とシンプルな色名が並んだ後に、
梅干し色 が口紅の色として現れます。
初めて目にする表現に、一瞬フリーズしました。
インパクトとともに少々違和感がありますよね?

原文(英語)が気になり、確認すると

The rouge on her lips was the color of umeboshi.

-と、umeboshi という単語がそのまま使用されていました。


「梅干し色」が伝えるのは色だけではない?

さて、「梅干し色」とはどんな色でしょう?
梅干しにもいろいろあり、色もくすんだ橙色から暗い赤まで
幅がありますが、一般的に連想されるのは、上の画像のような
紅色(べにいろ)ほど鮮やかでなく少々くすみのある落ち着いた赤で、
赤としての存在感はありながら、主張の激しい色ではない色、
大人の女性のシックな雰囲気が感じられる色だと思います。

ところで、「梅干し」と聞くと、多くの人が「すっぱさ」や、
「シワシワな感じ」(「うめぼしばあさん」ということばが
ありますね)を連想するのではないでしょうか。

ゆえに、日本では、美しい人について語るときに「梅干し」という
ことばは、通常は使わないと思います。

しかし、語り手は日本に移住してきた朝鮮人のソンジャです。
梅干しに慣れ親しんだ日本人よりも、外国人目線の方が
その色の美しさをストレートに捉えられるのかもしれません。
「梅干」と「口紅」の結びつきに、そんな感覚の違いも
表現されているように感じました。

そして、あらためて梅干しを見つめると、
何とも言えない赤色だなぁと美しさを再認識するのでした。