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| 伊丹十三さんご自身が表紙をデザインした「ヨーロッパ退屈日記」 |
最近読んだ 伊丹十三さんのエッセイ「ヨーロッパ退屈日記」は1ページ目から衝撃が走りました。そこにはこんな表現が…。
■ 個性的で強烈な色彩表現
『彼は、サモン・ピンクの皮膚に藁(わら)色の髪をした、雀斑(そばかす)の多い青年で、鶯の糞の色の背広、血膿(ちうみ)色のネクタイ、それにブルーの方眼のシャツを着ていた…』
この文章には5つ色の名前が登場します。「サモン・ピンク」「藁色」は慣用色名として知られていて、ブルーは基本色名です。
「鶯の糞の色」と「血膿(ちうみ)色」はいかがでしょう?「鶯…」はともかく、「血膿色」は初めて見る強烈な表現です。
鶯の糞は、美肌効果があると江戸時代から化粧品の原料として用いられていて、色は淡いグレイッシュなグリーンです。血膿は血の混じった膿のことで、濁った深い赤といったところでしょうか。
糞も血膿も美しい表現とは言い難く、著者がその色、あるいはその人物に対してあまり好感を持っていなかった雰囲気がうかがわれます。それにしても、このような表現をサラリと用いるなんて凄い!
■ 色にこだわり、色を楽しむ
伊丹さんは役者から映画監督になった方という印象が強いのですが、じつはデザイナーでもありました。この作品の中でも、伊丹さんの色に対する繊細さやこだわりが強く感じられます。
カクテルについて綴られた章では、
『わたくしは、彼女の、その日の気分や、好み、アルコール許容度、そして服装の色などをおもんぱかって、これ以外なし、というカクテルをピタリと注文する悦びは、男の愉しみとしてかなりのものと考えるのだが、いかがなものであろうか。』
と述べています。
服の色に合う色のカクテルを選ぶなんて、いかに色やビジュアルを重視していたかが解ります。同時にそれを楽しんでいたようですね。
ファッションだけでなく、食や街並みについても、伊丹さんは繊細かつ明確な美意識をお持ちで、今から半世紀以上も前に書かれた作品ですが驚くほど新鮮です。
巻末の関川夏央さんによる解説には、
『伊丹十三は言葉と文字を気にする人だった。… 赤いのアカを、赤い、朱い、紅い、赫い、丹い、緋いと使い分けないと気分が「淪(しず)」んだ。』
とあり、伊丹さんの凄さをダメ押しされました。
驚きと共に、色を伝えることへの強いこだわりに刺激を受けた一冊でした。
